今月の一冊 2013年5月

死ぬまでに観たい1001本の映画

写真は酔って帰った私を見た私の家人ではない。ジャネット・リーという女優さんである。映画ファンならご存知だろう、ヒチコック「サイコ」の有名なシーン。この写真を表紙にいただくこの本は、50人くらいの欧米映画評論家が文字通り古今東西の映画から1001本の映画を選んで、あらすじと評価を添えた名作ガイド。厚さは10cm近い。私の持っているのは2004年版。その後2010年まで盛り込んだ改訂版が出ている。

時間軸を映画創設時からとっているので、映画史探究的な興味も満たせるし、1001本の中でも作品により見開き2ページ写真付き、1ページ写真付き、および半ページ文章のみで紹介、の3パターンがあって自ずと格の違いを示して面白い。欧米のインテリ評論家が日本映画をどう見ているかも一つの読みどころ。私の持っている2004年版で最高待遇を受けているのは黒沢の「羅生門」「七人の侍」「乱」溝口の「山椒大夫」そしてジブリの「千と千尋」の5本。こういう本に付き物の不満だが「えっ、こんなのが」というのも入っているし「あれがないじゃん」というのも沢山ある。でも一つの物差しで、たまたまテレビで観た映画に良かったなあと思ってこの本に収められてると、なんだか少し嬉しくなる。因みに結構古い映画は観てる私でもまだ1001本の3分の1も観ていない。(しばらくは死ねない。)

自慢話を一つ。大学3年から勤めて1年目までの3年間、国立市内に配られる月刊フリーペーパーに国立と立川で公開される映画(国立にも名画座があったのだ)から1本選んで評を書いていた。最終回はデビッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」で私は「映画とは、スペクタクルと緻密な人間ドラマを融合させるという点で突き詰めると、デビッド・リーン監督の作品に行きつくのではないか」という趣旨の事を書いた。(今、目の前にそういう生意気を言う学生がいたら首を絞めたい。)ところが、この「1001本」を読んで驚いた。高名なインテリ批評家による「アラビアのロレンス」評は、私がその頃書いた表現・内容ほぼそのままだった。ふふなあんだ。ああ、でも俺もうちょっと上手い生き方出来なかったかなあ。