カテゴリー別アーカイブ: 今月の一冊

院長の習慣慎重 8月15日 (兼 今月の一冊)

異人たちとの夏

お盆はこれである。一昨年、昨年とNHK衛星でこの映画を二年続けて観て、いずれも涙滂沱となる不覚を取った。

家庭にも仕事にも疲れた中年男(映画では風間杜夫)が12歳で死別した両親に出会って過ごすひと夏。怪奇談でも単に親恋の話でもない。人生の下り坂に入って気付く、空っぽな人生。絶対的に自分を肯定してくれる人の存在を求めるが、それが死んだ親しか思い浮かばない。むしろその切なさが響く。男はつらいね。

原作を読もうと思い立ったのは最後の浅草「今半」での別離のシーンが映画とどう違うか確かめたかったから。あの宝石のような、美しい江戸弁の会話はそのままだった。また読んでいて不覚を取った。

グーグル検索1位!

恥ずかしげもなくこのブログ更新をFBやらメールやらで友人知人にPRしていたら、じぇじぇ、塵も積もればというのか、千里の道も一歩からというのか、グーグルで「英文ライティングスクール」と検索するとなんとトップに表示されるようになった。因みに2位は日経の英文添削である。くふふ、日経に勝った。冷や汗かいて下手な俳句をさらした甲斐があったというもの。このサイトを訪れていただいた方にはただもう感謝。ありがとうございます。(まだそれで生徒の申し込みが来てるわけではないんですが)

 

今月の一冊 2013年5月

死ぬまでに観たい1001本の映画

写真は酔って帰った私を見た私の家人ではない。ジャネット・リーという女優さんである。映画ファンならご存知だろう、ヒチコック「サイコ」の有名なシーン。この写真を表紙にいただくこの本は、50人くらいの欧米映画評論家が文字通り古今東西の映画から1001本の映画を選んで、あらすじと評価を添えた名作ガイド。厚さは10cm近い。私の持っているのは2004年版。その後2010年まで盛り込んだ改訂版が出ている。

時間軸を映画創設時からとっているので、映画史探究的な興味も満たせるし、1001本の中でも作品により見開き2ページ写真付き、1ページ写真付き、および半ページ文章のみで紹介、の3パターンがあって自ずと格の違いを示して面白い。欧米のインテリ評論家が日本映画をどう見ているかも一つの読みどころ。私の持っている2004年版で最高待遇を受けているのは黒沢の「羅生門」「七人の侍」「乱」溝口の「山椒大夫」そしてジブリの「千と千尋」の5本。こういう本に付き物の不満だが「えっ、こんなのが」というのも入っているし「あれがないじゃん」というのも沢山ある。でも一つの物差しで、たまたまテレビで観た映画に良かったなあと思ってこの本に収められてると、なんだか少し嬉しくなる。因みに結構古い映画は観てる私でもまだ1001本の3分の1も観ていない。(しばらくは死ねない。)

自慢話を一つ。大学3年から勤めて1年目までの3年間、国立市内に配られる月刊フリーペーパーに国立と立川で公開される映画(国立にも名画座があったのだ)から1本選んで評を書いていた。最終回はデビッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」で私は「映画とは、スペクタクルと緻密な人間ドラマを融合させるという点で突き詰めると、デビッド・リーン監督の作品に行きつくのではないか」という趣旨の事を書いた。(今、目の前にそういう生意気を言う学生がいたら首を絞めたい。)ところが、この「1001本」を読んで驚いた。高名なインテリ批評家による「アラビアのロレンス」評は、私がその頃書いた表現・内容ほぼそのままだった。ふふなあんだ。ああ、でも俺もうちょっと上手い生き方出来なかったかなあ。

 

 

今月の一冊

130404_210012 歌と言えば山本潤子、本は川本三郎サンである。私にとっては。ついでに言えば映画はデビッド・リーンで、モツ煮は西荻戎(えびす)で、ラーメンは国立旭通り金芳園で。。。

川本さんの本を読むと、夏の日の軽井沢の木陰でうまあい珈琲を呑んでいるような、穏やかな気持ちになる。この「そして人生はつづく」。奥さんを亡くした後の喪失感から、静かに静かにたちあがらんとする川本さんの闘魂も垣間見え、たくさん読んだ川本さんのエッセイの中でも沁みてしまった。まいったなあ。

川本さんは若き日の蹉跌(詳しくは妻夫木聡で映画にもなった”マイ・バック・ページ”で)の吐露を抑えに抑え、何十年という歳月で見事にそれを肚でこなして来た。そんな前半生が川本さん独特の「私」という主語を極力用いない、優しい目線の文芸評論、映画評論、そしてエッセイを紡がせてきた。

実は私が(あっ、使ってしまった)この英語学校開講と言うとても金儲けになりそうもない暴挙に立ち上がったのも、そんな川本さんの静かだけども骨太な生き方に影響されたところ、無しとしない。

但し、英語を書く上では主語の明定は必須ではあるが。。。